2008.12.01    「映画・8年目のご褒美」   荒井 久
 
 
もう10年ぐらい前の話だ。
英語も仏語も堪能で、文章も書ける女性スタッフを、僕の直下に採用した。
優秀なだけに、実は扱いもやや難しかった。
ある時、同時に知り合った映画関係会社の社長をいたく気に入った彼女。
僕は、自分の仕事よりも彼女の希望を優先させた。
その社長から「厳しい仕事だが、苦楽を共にしよう」という彼女へのメールに僕も感動したのだった。
それから8年が過ぎ、先週末、僕にこんなメールが飛び込んだ。

僕には8年目のご褒美。走馬灯のような映画に映るのです。
(ご本人に掲載の了解を取りました)

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荒井さん、

ずいぶんご無沙汰いたしました。お元気でいらっしゃいましたか?
◯◯◯◯です。

先ほど偶然荒井さんの日記に行き当たり、読ませていただいているうちにとても懐かしくなりました。荒井さんのお声が文章から聞こえてきました。元気いっぱいで、美味しいものが大好きで、お洒落で、いつも好奇心いっぱいで何か新しいものを探している荒井さん。

私が荒井さんの下で働き、そしてそこから旅立ってから、もう8年になります。
時間はあっという間に経ってしまうものですね。

荒井さんもそうだと思いますが、この8年、私もいろいろな、あまりに多くのことを体験しました。でも、今振り返っても、私は幸せだったと思います。

荒井さんの下で働いたことをきっかけに、何よりも好きだった映画の世界でめ一杯仕事ができ、大好きな映画人たちに大勢出会う機会があり、たくさんお話を聞き、中には友達になれた人もいましたし、同じ分野で仕事をしている人たちとも大勢知り合いになれました。たくさんインタビューし、たくさん文章を書きました。本当に満足できました。

人にはいろいろな縁があり、運命があると思いますが、私が自分の一番好きなものを仕事にできたのも、荒井さんのもとで働けたからです。当時は荒井さんに反発したこともありましたし、ずいぶんご迷惑もおかけしました。

でも、今に至るまで、荒井さんに対する尊敬の気持ちは失っていません。荒井さんにはいろいろなことを教えていただきましたし、いろいろな所に連れていっていただき、さまざまな経験をさせていただけました。当時は辛いこともありましたが、今となっては本当に懐かしく思い出されます。

その後も私は相変わらず、楽しいことも辛いこともありましたが、最も自分に向いた分野でしたので、体を壊すまで365日、夢中で仕事をし、映画に浸り続けました。この8年で、ほとんどやりたいことはやり尽くしたという思いがあり、満足を感じてしまってからは、映画に対する情熱を失っていきました。

また、一人の単なる観客に帰りたくなったのです。不思議にも、それと相俟うように、映画では食べられなくなってきました。映画の仕事で生活を立てる日々は今年の5月で終わりました。ただ、いろいろな関係もあって、映画サイトは止めるわけにいかないので、あくまで趣味の域で続けています。

その後は、主に語学を生かしたバイト仕事ばかりしています。たまに来るTV局のドキュメンタリーの翻訳ですとか、ウェブニュースの翻訳などです。

現在のメインの仕事は二つやっていまして、フルタイムではインド系の会社のインドに関するウェブニュースを英語から日本語に翻訳する仕事で、夜はイタリア・ミラノにあるイタリア語語学学校の秘書業務をネットを通じてやっています(イタリア人秘書に成りすまして)。

この学校のイタリア人経営者が友達なので、その関係から仕事を手伝うようにな
りました。地球の裏側の国の秘書業務をやれるのですから、本当にインターネットとは素晴らしいものです。

そしてついに、1月には東京の生活を引き払い、イタリア・ミラノでの生活を始める決心をしました。その語学学校で仕事を手伝いながら、授業も受けさせてもらえることになったのです。

何かやり残したことがあるという思いがあって、北海道から再上京した私ですが、今はもう、東京でやりたいことはやったという満足感だけがあり、次には夢だった再びヨーロッパで生活することを実行する決心をしたのです。

それがイタリアになったのは、本当に不思議な偶然なのですが。去年までイタリアには全く興味がなく、フランス一筋だった私が、いろいろなことがあって、今はイタリアにどっぷりです。フランス語と似ているので、イタリア語も結構分かるようになってきました。

すごくイタリアで生活したいわけじゃないのです。でも、自分の意思とはあまり関係ないところで、そこに向かって道がつけられていった感じで、抵抗できない具合に導かれている気がするのです。本当に不思議なのですが。

そんなわけで、仕事の合間に身辺整理をして渡航の準備をしています。あと、残り1ヶ月です。

今も横浜の◯◯◯で暮らしていますが、この町と住まいが大好きなので、ここを離れるのはちょっと残念です。

以上、長々とすみません。8年間音沙汰のなかった元部下の近況報告です。
荒井さんの日記を読んでいたら、無性に懐かしくなり、ご連絡したくなりました。これまで全くご連絡しませんでしたのに、本当に申し訳ございません。

荒井さんのご多幸を心から祈っています。

◯◯◯◯

 
   
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